大阪高等裁判所 昭和25年(ナ)3号 判決
原告 中村貞夫
被告 兵庫県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求中全国選挙管理委員会の裁決の取消を求める部分を却下しその余を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「全国選挙管理委員会が昭和二十五年三月六日なした、昭和二十四年十一月二十一日の被告の決定は取り消すべき限ではないとの裁決、及び被告が昭和二十四年十一月二十一日なした同年九月二十日執行の同縣農地委員会選挙の第一選挙区第三号階層の選挙につき原告の当選は無効であるとの決定を取り消す。」旨の判決を求め、請求原因として、「昭和二十四年九月二十日執行された兵庫縣農地委員会選挙に際し、原告は第一選挙区第三階層に立候補し、開票の結果候補者石本源一と共に各自百五十七票の得票を得、くじにより原告は当選人と決定した。ところが第一選挙区の第十四開票区に吉村源一と記された一票があり、選挙会はこれを無効投票としたが異議申立の結果、被告はこれを石本源一に対する有効投票として認め、同年十一月二十一日原告の当選を無効であると決定した。よつて原告はこの決定を不服として全国選挙管理委員会にその取消を求めて訴願したが、同委員会は昭和二十五年三月六日被告の右決定は取消すべき限でないと裁決し、その裁決書は同月二十一日原告に交付された。
思うに第一選挙区の第十四開票区は原告の居住する三原郡にあり、候補者石本は津名郡に居住するものであるから、農村の実情からすれば、源一と云う名の同一であることを理由に、吉村源一なる投票を機械的に石本に対する投票と看做すことは誤りであり、姓における中村と吉村との近似性からも具体的綜合的な推定をなすべきであつて、結局吉村源一なる投票は、候補者でない者の氏名を記載したもの、又は候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効とするのが妥当である。
のみならず右吉村源一なる投票は不在投票に係るものであるところ、これを一般投票と混合せずに、別に開票したものであるから、この点から云つても右投票は無効である。」と述べた。(立証省略)
被告は「原告の請求を棄却する。」旨の判決を求め、答弁として、「原告主張の請求原因中、第一段の事実関係はこれを認める。しかしながら本件選挙においては吉村と云う姓の候補者は一人もなく、源一と云う名の候補者は石本源一唯一人であるから、吉村源一なる投票は石本源一の得票として有効と見るのが相当であると考える。なお原告の有効得票として計算してあるもののうちには、西村貞夫と記載した投票があるが、もし吉村源一と記載した投票が無効であるとすれば、同じく姓を誤つて記載した西村貞夫なる投票をも無効とすべきであるから、やはり石本源一の得票が原告の得票より一票多いことになり、原告の当選は無効となるものである。
次に、開票手続に規定違反の事実があつたと云う原告の主張はこれを否認する。なお仮にそのような違反があつたとしても、それは当選無効の原因とはなり得ない。」と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告の請求中、まず全国選挙委員会の裁決の取消を求める部分について考えるに、行政廳の違法な処分の取消を求める訴は、特別の定のない限り、処分をした行政廳を被告とすべきである処、本件の場合別段の定はないから、被告は右委員会であるべきであつて、本件被告には当事者たる適格がなく、この点で右請求部分は不適法であるのみならず原告はすでに右裁決の基本である本件被告の決定の取消を求めているのであるから、その上に重ねて右裁決の取消を求める必要はないのであつて、即ち訴の利益を欠いているのであるから、右部分の請求は不適法としてこれを却下すべきものである。
次に被告のなした決定の取消の請求について考えるに、選挙の経過乃至異議、決定、訴願、裁決の点については、開票手続の点を除き、当事者間に爭がない。そこで本件第一の爭点は、吉村源一なる投票が石本源一に対する投票として有効であるか否かであるが、本件選挙において、吉村と云う姓の候補者は全然なく、源一と云う名の候補者は石本源一唯一人であること、原告において爭つていない所であり、
吉村源一と原告中村貞夫との類似点は村の唯一字にすぎないから、この投票が原告に対するものとは到底認められず、他に吉村源一に似寄つた姓名の候補者があつたことの認められない本件においては、この投票を右本源一に対するものと判断した被告の決定は相当であると謂はなければならない。
さらに原告は開票手続の違法を主張するが、この事は選挙無効の原因となるかどうかは格別として、本件のような当選訴訟において、投票の無効の原因とはなり得ないものであるから、請求原因として理由がない。
よつて原告の請求を失当と認め、民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 大嶋京一郎 林平八郎 大田外一)